探偵業は、個人のプライバシーに深く関わる業務であり、調査対象者の行動や言動、所在といったセンシティブな情報を扱うため、高い倫理性と法的遵守が求められる分野です。
そのため、日本では2007年6月に施行された「探偵業の業務の適正化に関する法律(探偵業法)」により、業務の範囲・手続き・責務が明確に規定されています。
探偵業法では、以下のような重要な義務・規制が定められています。
探偵業を営むには、営業所ごとに公安委員会への届出が必要です。これは許認可制ではなく届出制ですが、申請には適格性が求められ、各種確認項目を満たさなければ営業できません。
また、届出後も、名称や代表者、所在地などに変更があった場合は速やかに変更届を提出する義務があります。
探偵業者は、公安委員会から交付される「探偵業届出証明書番号」を記載した標識を営業所に掲示しなければなりません。これは依頼者に対して正規の業者であることを明示するための措置であり、標識の未掲示や虚偽営業は違法となります。
※この標識には、事務所の商号・名称、公安委員会への届出番号、ならびに該当地域における届出日(申請日)が記載されています。記載された届出日は現在の営業地におけるものであり、以前に他の地域で営業していた場合などは、その期間は含まれておりません。また、実績等は、実際の実績年数などとは異なる場合があります。
※探偵業法において、従業員数が5人以上の従業員、かつ自社のウェブサイトを有している探偵業者は、ウェブサイト上に標識を掲示する義務があります。
※常時使用する従業者の数が5人以下である場合
当該探偵業者が管理するウェブサイトを有していない場合のいずれかに該当する場合は、ウェブサイトへの掲示義務は除外 警視庁サイト
探偵業者は、営業所ごとに従業者名簿を備え付ける必要があります。(警察が確認します)
記載事項:氏名、住所、性別、生年月日、採用年月日、退職年月日(退職した場合)、従事させる探偵業務の内容、写真(縦3cm、横2.4cm)など。
保存期間:退職した従業者の名簿は、退職後3年間保管しなければなりません。
探偵業者は、その従業者に対し、探偵業務を適正に実施させるために必要な教育を行う義務があります。
依頼者と契約を締結する際には、調査の目的・方法・料金体系・個人情報の取り扱いなどについて、書面で説明を行い、双方が同意の上で契約を交わすことが義務付けられています。
また、調査結果の報告も、依頼内容に基づいて明確に提示される必要があります。
探偵業法では、調査中に取得した個人情報を適切に管理し、第三者への漏洩や不正利用を防止する措置を講じることが求められています。
また、業務終了後の記録についても、必要に応じて安全な形で保管・廃棄を行う体制が求められています。
探偵業は届出制のもとで自由に営業が可能ですが、その運営は厳格な行政監督の対象です。
特に都道府県警察による年1回以上の立入検査(警察、刑事が業者の所に来ます。面前での実地検査)が制度化されており、業者の実態把握と法令遵守状況の確認が行われています。
検査項目は以下のような内容を含みます。
届出書類と実際の営業状況の一致確認
契約書や重要事項説明書の適正な管理、保管状況
調査報告書の整備状況
情報管理体制(個人情報や証拠類の保管方法)
不正調査(盗聴・不法侵入など)の有無
標識の掲示状況および届出番号の表示確認
違反が発覚した場合は、業務改善命令、営業停止命令、あるいは処分勧告が行われることもあり、探偵業者は常に厳正な基準のもとで活動を行っています。
探偵業は、依頼者の要望に応じて客観的な情報を収集し、問題解決の手がかりを提供する職業です。
その業務の過程では、調査対象者の行動や環境に対する深い観察が必要になるため、単なる技術や知識だけではなく、高い倫理観・法令遵守意識・説明責任が不可欠です。
とりわけ、信頼される探偵業者は以下の点を重視しています:
調査の透明性と正当性
調査範囲と方法の説明責任
顧客の目的に合った調査設計
中立性を保った報告と記録
継続的な法令順守と体制整備
探偵に調査を依頼する際、安心して任せるために以下の確認をおすすめします:
正規の届出がなされているか(証明書番号の表示)
事前説明が書面で行われているか
調査内容・料金の明示があるか
個人情報保護に関する取り組みがあるか
契約書類・報告書が適正に保管されているか
探偵業界は、かつて曖昧な運営や非合法な手法での調査が問題視されたこともありましたが、現在では法制度の整備と警察による実地監督により、業界の健全化が着実に進んでいます。
正規の手続きを経た探偵業者は、単なる情報収集ではなく、依頼者の不安や疑念を「記録」として残し、対話や行動のための根拠となる支援を行う専門職です。
こうした立場を支えるのが、探偵業法とその運用体制であると言えます。